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相談する顧客インタビューの話になると、マーケティングと営業、経営の間で、どこか温度差が生まれてしまうことがありませんか?
たとえば現場で、次のようなやり取りを実際に目にしたことがあります。
マーケター
「ちょっと一回、既存のお客さまにインタビューしたいですね」経営・営業
「商談の議事録や録画ならパッと出せるの結構ありますけど、送りましょうか?」
マーケターとしては「お客さまの声をきちんと聞きたい」という意図で話すものの、営業や経営側から見ると「すでに情報はあるのではないか」「改めてお客様の時間をいただくのものなぁ..」という感覚が先に立ってしまい、うまく噛み合わない。
過去にインタビューを実施したものの、マーケ側での成功体験に繋がらなかった経験があれば、なおさらです。
今回の記事では前編として
- なぜマーケターは顧客インタビューをやりたがるのか
- なぜ営業・経営側はそれに対して慎重な反応になりがちなのか
- 経営者の「自分が一番顧客を分かっている」という感覚が、いまの状況にどこまでフィットしているのか
といった点を整理します。
顧客インタビューの具体的な活かし方や、バリュープロポジションとのつなぎ方については、後編であらためて取り上げます。
1. マーケターが顧客インタビューをやりたがる背景
まずマーケター側の前提から見ていきます。
マーケターが「顧客インタビューしたいです」と言うとき、多くの場合、次のような不安や欲求を抱えています。
- 数字や管理画面の指標だけを見て施策を決めることへのそこはかとない不安
- 営業経由で共有される「お客さまの声」がは、営業のフィルター越しで、生のニュアンスが削ぎ落とされているように感じる
- LPや広告コピー、コンテンツのテーマを、自分の感覚だけで決めることに抵抗がある
- 「なぜ自社が選ばれているのか」を、ターゲット本人の言葉で確認したい
- 机上の空論でマーケティングをしていると思われたくない
言い換えると、
自分が打つ施策の前提を、自分の目と耳で一度確かめておかないと精度に不安
という感覚です。
マーケターがやりたい顧客インタビューは「営業トークの改善」そのものが目的では全然なく、
次のような点です。
- 自社は、どのような立場・カテゴリの「何屋」として認識されているのか
- 顧客は、導入前にどのような状態から検討を始め、何と比較し、最終的に何を理由に選択しているのか
- 導入後のどのタイミングで「この会社に頼んでよかった」と感じているのか
このような情報は
- バリュープロポジションの磨き込み
- カテゴリーの取り方・見せ方
- LP・営業資料・広告コピーの一行目の言葉選び
などに直結します。
マーケターは、こうした「自社の立ち位置と言葉」を更新するための材料として、顧客インタビューを求めていることが多いです。
2. 逆に営業側が「またそれか」と感じてしまう理由
一方で、営業側がマーケ起点の顧客インタビューに対して慎重になる理由も、現場の歴史を振り返ると理解しやすくなります。
よくあるパターンとしては、次のようなものがあります。
- マーケティング主導で顧客インタビュー企画が立ち上がる
- 営業が顧客をアサインし、日程調整や段取りを行う
- 顧客が時間を割いてインタビューに応じてくれる
- 後日「インタビューをまとめた資料」が全社に共有される
- しかし、営業トークも提案資料も現場の動きも、ほとんど変わらない
このような経験が何度か積み重なると、営業の記憶には
「顧客インタビュー、仕事と資料は増える割に成果に結びついてるかどうかわからんし、マーケターがやってる感出すための儀式なんじゃないか」
という印象が残ってしまいます。
さらに営業から見ると
- 本来であれば商談やフォローに使えたはずの時間を、インタビューに割いている
- 顧客との信頼残高を、自社の内向きプロジェクトに使っている
といったコスト意識もあります。
そのため、マーケターが善意で
「もう一度、顧客インタビューをやりたいです」
と言ったとしても、
「以前もやったが、現場が楽になった実感はほとんどなかった」
「今回も同じ結果になるのではないか」
と感じたとしても、それは無理のない反応だと思います。
3. 「自分が一番顧客を分かっている」と感じる経営者の視点
さらにここに、経営者の視点が加わります。
多くのスタートアップや新規事業では
- 最初のプロダクトを売り始めたのは、経営者自身
- 最初の数社からのフィードバックをもとに、プロダクトを改善してきた(PdM兼任)
- 断られ続けた時期も含めて、一番濃い顧客体験を持っている
というケースが多く見られます。
このような経験を持つ経営者にとっては、
「この会社で一番顧客のことを理解しているのは自分だ」
というのは間違いないことだと思います。
実際、プロダクト初期の「誰に・何を・どう売るか」を決めるうえでは、経営者の現場経験が非常に大きな役割を果たしてきたはずです。
一方で、事業が伸びていくにつれて、状況は少しずつ変わります。
- 顧客の規模や業種の幅が広がる
- 競合が増え、比較される軸が変わる
- 市場の前提(価格感、導入スピード、ツールへの知識レベルなど)が変化する
経営者は、組織運営やファイナンス、採用といった役割に時間を取られるようになり、
かつてのように毎日現場に立ち続けることは難しくなっていきます。プロダクト改善の陣頭指揮も、日々の細かい改善はメンバーに任せることが増えます。
それでも記憶の中には
- 最初の顧客とのやり取り
- プロダクトの「原体験」となった成功事例
が強く残っているため、
「顧客のことは分かっているつもりだが、今の現場の細かい変化については、どこまで追えているのか自信が持てない」
という、少し複雑な状態になりがちです。
4. ずれているのは「誰が一番詳しいか」ではなく「何を見て何に使うか」
一旦ここまでまとめます。三者は、
- マーケターは「自社の立ち位置や表現を、顧客の言葉で確かめたい」
- 営業は「顧客との時間を投じる以上は、現場の動きが変わるものであってほしい」
- 経営者は「自分の持っている顧客像と、今の現場の感覚との差分が見えにくい」
という状態になっています。
表面的には
「誰が一番顧客のことを分かっているのか」
という議論に見えますが、
本質的には、次の三つがそれぞれずれています。
- いつの顧客を見ているのか
- 経営者は、プロダクト初期の顧客像を強く覚えていることが多いです。
- 営業は、ここ数か月の商談状況に引っ張られがちです。
- マーケは、数値やログから平均化された「典型的な顧客像」を見ています。
- どの場面の顧客を見ているのか
- 営業は、商談の場での反応や、導入直前の迷いに詳しいです。
- 経営者は、導入後の成功事例や、意思決定の過程全体を踏まえたインサイトを持っています。
- マーケは、検討前後の行動や、問い合わせ前後の動きなど、オンライン上の断片を見ています。
- その情報を何に使おうとしているのか
- 営業は次の商談で受注を取るためのインサイト使いたい
- 経営者は事業の方向性を誤らないためのインサイトが欲しい
- マーケはポジションと言葉と打ち手の精度を上げたい
顧客インタビューを巡るモヤモヤの多くは、この三つのズレが明示されていないことに由来しているように思います。
5. 次回記事で扱うこと
今回の記事では
- マーケターが顧客インタビューをやりたがる背景
- 営業側がそれに対して慎重になる理由
- 経営者が「自分が一番顧客を分かっている」と感じやすい構造
- 三者が見ている時間軸・場面・目的の違い
といった点について解説してきました。
顧客インタビュー自体は非常に大きな価値を生む可能性があります。
ただ、目的や活かし方が曖昧なまま実施すると実施者の自己満に終わるどころか、
- 顧客と営業の時間を使ったにもかかわらず、現場が何も変わらない
- その結果、「またやる必要はないのでは」という空気だけが残る
という状態に陥りがちです。せっかく大きな価値を生みうるチャンスを活かす機運が閉じてしまいます
後編では
- マーケターが本来やりたかったことは何だったのか
- 過去の顧客インタビューが「意味のあるもの」にならなかった要因はどこにあったのか
- バリュープロポジションやポジショニングの観点から見たとき、顧客インタビューをどの文脈で使うと突破口になり得るのか
といった点を、もう一段具体的に掘り下げていきたいと思います!