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相談する「ユーザーインタビューをしたけど、結局最初から思っていた通りの結果しか出てこなかった、そりゃそうなんだよねーの確認で終わった感がある」
こんな経験はないでしょうか。時間をかけて準備し、複数のユーザーと話したのに、新しい発見がほとんどない...。実はこれはヒアリングの際に陥りがちな「仮説補強の罠」かもしれません。
私自身、以前はインタビューの度に「やっぱりそうだよね」という確認作業に度々終始し、インサイトを見逃して誤った意思決定や判断を招いてしまった経験をしたことがあります。そんな中で気づいたのが、今回お話しする「2軸思考法」です。
なぜ仮説の検証だけでは不十分なのか?
誘導尋問にならないだけでは足りない
ユーザーインタビューの基本として、よく言われるのが以下のような点ですよね。
- 誘導尋問にならないようにする
- 感情ではなく行動をフラットに聞く
- 5W1Hやオープンクエスチョンを心がける
確かにこれらは重要です。でも実際のところ、これだけ守っていても「自分の仮説を強化するだけの情報収集」に陥ってしまうことがしばしばあるのではないでしょうか?
筋の良い仮説がもたらす落とし穴
厄介なことに、筋の良い仮説を持っているほど、この罠に陥りやすくなります。なぜなら、ユーザーの反応がある程度良好だと「やはり正しかった」と安心してしまい、それ以上深掘りしなくなるからです。
例えば、ECサイトの改善プロジェクトで「カート離脱率が高いのは決済方法が少ないから」という仮説を持っていたとします。インタビューで「確かに決済方法は増やしてほしい」という声が出れば、そこで満足してしまいがち。でも実は、もっと根本的な「商品情報の不足による不安」が真の離脱理由だったりするんです。
2軸思考法〜「確からしさ」と「それだけか」を同時に探る〜
第1軸:その仮説は本当に確からしいのか
まず大前提として、持っている仮説が正しいかどうかを確認する必要があります。ただし、ここでのポイントは「正しいか間違っているか」の二元論ではなく、「どの程度確からしいのか」という強度を測ることです。
具体的には
- ユーザーの実際の行動履歴を詳しく聞く
- その仮説に関連する具体的なエピソードを引き出す
- 頻度や影響度を数値的に把握する
第2軸:それ以外に何か強い軸はないのか
ここが最も重要な視点です。仮説が正しかったとしても、それがユーザーにとって最も重要な要素なのか、他にもっと強い動機や課題があるのではないか、という探索的な姿勢を持つことです。
実践的なアプローチ
- 「他に何か気になることは?」という一般的な質問ではなく
- 「〇〇(仮説)よりも重要だと感じることってありますか?」
- 「もし〇〇が解決したとして、それでも残る課題は?」
- 「〇〇以外で、最近困った経験を教えてください」
このように、意図的に仮説の外側を探る質問を織り交ぜていくんです。
実践例 社内DXプロジェクトでの活用
ケース:業務効率化ツールの導入検討
ある製造業の会社で、営業部門の業務効率化を検討していたときの話です(これは複数の事例を組み合わせた仮想事例です)。
最初の仮説 「営業担当者は顧客情報の入力作業に時間を取られている」
従来のアプローチだと...
- 入力時間の短縮方法を聞く
- どんな情報入力が面倒か聞く
- 理想の入力フォームを聞く
2軸思考法でのアプローチ
第1軸での確認: 「実際に1日の中で顧客情報入力にどれくらい時間を使っていますか?」 「最も時間がかかる入力作業を具体的に教えてください」
第2軸での探索: 「入力作業以外で、営業活動で最も改善したいことは?」 「もし入力が全自動になったとして、それでも残る課題は?」
予想外の発見
このアプローチで見えてきたのは、入力作業自体は確かに課題だったものの、実はそれ以上に「入力した情報が他部署と共有されていない」ことによる二重作業や、「過去の商談履歴が検索できない」ことによる提案準備の非効率さの方が、営業担当者にとってより大きなストレスだったということでした。
もし第1軸だけで進めていたら、入力効率化ツールを導入して「改善完了」としていたかもしれません。でも実際は、情報共有の仕組みづくりの方が優先度が高かったんです。
インタビュー中の軸の切り替えタイミング
ユーザーの反応を読み取る
実際のインタビューでは、この2つの軸を行ったり来たりしながら進めることになります。そのタイミングの見極めが重要です。
第1軸から第2軸に切り替えるサイン
- ユーザーの回答が単調になってきた
- 「そうですね」「確かに」という同意が続く
- 具体的なエピソードが出てこなくなった
第2軸から第1軸に戻るサイン
- 新しい観点で強い反応が出た
- 「実は...」「そういえば...」という言葉が出た
- 表情や声のトーンが変わった
時間配分の目安
60分のインタビューなら、私は大体こんな配分にしています:
- アイスブレイク・背景確認(10分)
- 第1軸:仮説の確認(20分)
- 第2軸:別軸の探索(20分)
- 深掘り・まとめ(10分)
もちろん、話の流れによって柔軟に調整しますが、意識的に第2軸の時間を確保することが大切です。
この手法が特に有効な場面は?
王道はやはり「顧客インタビュー」
本来この2軸思考が最も威力を発揮するのは、やはり顧客インタビューです。
新機能開発やサービス改善の現場では、担当者の仮説が強いほど、聞きたいことに引っ張られて「補強のための質問」に陥る危険性がどうしても残ります。
2軸思考を意識することで、ユーザー自身が気づいていない別軸の動機や潜在的な不満を引き出せるようになります。
たとえば
- 早期解約の主要因だと思っていた「3ヶ月経過タイミングでのユーザーの効果実感」より、「サービス開始タイミングでの期待値のズレ」が強い心理的障壁だった
こうした認知のズレを正確に拾えるのが、2軸思考の真価だと思います。
意外にも、社内インタビューでも効果が大きい
実は、この2軸思考法が最も効果的なのは、社内の関係者へのインタビューなんです。なぜなら、社内の場合は担当者の立場や部署の利害関係によって、最初の仮説にバイアスがかかりやすいからです。
例えば
- IT部門主導だと「システムの問題」
- 人事部門主導だと「スキルや教育の問題」
- 現場主導だと「人手不足の問題」
という具合に、それぞれの立場から見た仮説に偏りがちです。2軸思考法を使えば、こうした部門の壁を越えた真の課題を発見できる可能性が高まります。
まとめると?インサイトから行動へつなげるために
ユーザーインタビューの最終的な目的は、綺麗にまとめられたレポートを作ることではありません。得られたインサイトを基に、具体的な行動につなげることです。
そのためには
- 筋の良い仮説を準備する(でも固執しない)
- 仮説の確からしさを確認する(第1軸)
- それ以外の強い軸を探索する(第2軸)
- 2つの軸を行き来しながら深掘りする
この2軸思考法、最初は意識的にやる必要がありますが、慣れてくると自然にできるようになります。「あ、今自分は仮説の補強だけしてないか?」と自問自答する習慣をつけるだけでも、インタビューの質は大きく変わるはずです。
次回のユーザーインタビューや社内ヒアリングの際は、ぜひこの2軸を意識してみてください。きっと今まで見逃していた重要なインサイトが見つかるはずです。