ChatGPTに「私のことを分析して」と頼むと、かなりの確率で「あなたは些細なことでも深く掘り下げて分析する人ですね」と返ってくる。いやいや、と思う。お前と話すのは何かを分析するときだけなのだから、そりゃ俺のことを分析的だと思うだろう。仕事の合間にぼーっといまだにウイイレしている自分のことなんて、あなたは知らないでしょうと。
と言いつつ、返ってきた文章を読み返すと、確かにこんなことまでケアしていたっけ、というところまでリスクを潰し、思いつきの論点をさらに突っ込み、施策の検討が探索的にどんどん広く深くなっていく自分がいることにも気づいた。鏡が歪んでいるのは確かだが、映っているのが自分でないわけでもない。
リスクを潰したい、知らないまま進みたくない、という気持ちはもちろん前からあったけれど、違うのはその気持ちを止めるものがなくなったことだ。多角的に検証させるコストがゼロなので、打ち切る理由がない。掘れるから掘っとく?という制御できないバイブスである。これがAIによる増幅というやつかと、気づくわけである。俺の性格の一部分が明らかに過剰に増幅されている。
旅行の例を挙げよう。インドにバックパッパーしに行くとなれば、お腹を壊したらどうしよう、ぼったくられたらどうしよう、という不安は当然つきものであった。それでも「まあそれも含めて経験経験」、んなことより飯を楽しもう、文化とカオスに身を投げよう、という冒険心で片付けていたつもりだったが、あれは冒険心というより、それ以上調べようがなかったという事情の方が大きかったのではないか。今はこしらえたAIにすぐに聞けてしまう。お腹を壊したらどの薬がいいか、ぼったくられたらどう切り返すか、そもそもぼったくってくる人はどういう心理状態でやっているのか、人間の体はなぜお腹を壊すのか。ついうっかり話が広がってしまう。もとの不安の中身は結局何も変わっていないし、行ったら行ったで結局お腹を壊すのである。
仕事の場でどうだろう?クライアント先で一緒に仕事をしている人が、まさに似た話をしていた。人間がパワポでスライドを作るのをやめ、AIによってHTMLでビジュアル的に整った資料がいくらでも作れるようになった。会議体で一つの主張を説明するためにそれが一つずつ届き、何人も部下を抱えるマネージャーである彼は、その読解に追われているらしい。寄せられる文章は整っているぶん、書き手の頭を一度通ったのかどうかが見た目から分からず、なまじAIっぽいものは読む前から読みたくない。
で、そのマネージャーがHTML資料をじっくり読むのかというと、面倒すぎて読まない。その資料をAIに要約させてしまう。作る側もAI、読む側もAI。圧縮された情報だけを受け取って、なんとなく理解した気になるが、あれは本当に通じたのだろうか。分からないので「本当にこういう意図ですか」と口頭で確認することになり、確認のためのやりとりが増える。やりとりが増えれば日程調整が増え、結局は人間の都合がボトルネックになって物事が進まない。
会議ばかりで思考や手を動かす時間がなくなると、人はAIに丸投げしようとする。そして「何か」がまた大量に生まれる。滑稽である。
本来、社内チャットに人間の手で書いた三行の箇条書きで論点を整理して、「これだけ決めようね」とやれば済む場面ばかりなのである。三行が一番速いのは、書き手が頭の中で圧縮する手間を一人分払って、受け手全員の手間を減らしているからだと考えている。本当に思考リソースを投下しなければいけないところにAIを使い、使わなくていいところには使わない。AIとの付き合い方のリテラシーであると同時に、組織で、というより人間と働くことについてのバランス感覚なのだと思う。
このあたりの塩梅もいずれAIがやってくれるようになるのかもしれない。ただ、何を決めるために何を作り、誰に何を共有・理解させるかを決めることは、仕事のうちで人間に残っている一番中心の部分である。そこまでAIが引き受ける世界では、人間はもう働いていない。働いていないなら悩む必要もないのだから、この悩みがある限り、悩む役まわりは人間の側にある。インドでぼったくりにあったら逞しく跳ね返せばいいのであるし、三行で済むものは三行でいい。とあえて切り捨てられるバランス感覚と強い心を宿してAIを使うことが今求められるスタンスなのだろう。
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