目次
相談するGoogle広告のデータ分析って、基本的には管理画面のダッシュボードか、CSVエクスポートしてExcelで集計するか、BIツールに流し込むか、のいずれかだと思います。どれも一長一短があって、結局「見たい切り口」が事前にはっきりしている場合に速いツールと、切り口を試行錯誤したい場合に自由度が高いツール、という住み分けになっています。
今回、Google公式の Google Ads MCP を Claude Desktop につないでみたのですが、これがその中間をうまく埋めてくる感触でした。会話ベースで集計軸をその場で組み替えられるので、「こういう切り口で見たい」が決まっていない状態から仮説検証のループを回せるのが面白い。
この記事では、Google Ads MCP の概要とセットアップのポイント、そして実際に使ってみて「管理画面では見えにくかった」切り口をまとめていきます。
こんな方におすすめ
- Google広告のデータを会話ベースで分析してみたい方
- 管理画面の標準レポートだと「見たい切り口が作れない」と感じたことがある方
- 代理店や前任者から広告アカウントを引き継いで、過去運用を読み解きたい方
この記事を読むと
Before:広告分析のたびにCSVエクスポートして集計し直すか、決まった切り口のダッシュボードを眺めるしかなく、「切り口を試行錯誤する」という分析がやりにくい。
After:MCP経由でClaudeと会話しながら集計軸をその場で組み替えられる。仮説検証のループを一つのウィンドウの中で回せて、管理画面では組めなかった切り口で広告データを読み解けるようになる。
1. 広告分析の「集計軸が固定されている」問題
Google広告の管理画面のレポート機能は、よくできています。キャンペーン単位、広告グループ単位、キーワード単位、デバイス別、時間帯別、地域別など、ひととおりの切り口は用意されていて、ポチポチするだけで表やグラフが出ます。
ただ、実際の分析業務でよくあるのは「ダッシュボードで見える切り口のちょっと隣が見たい」という状況です。たとえば以下のようなケース。
- 「マッチタイプ別の費用対CVを、キャンペーン横断で見たい」
- 「CV0の広告グループに限って、実際に出ている検索語句だけ並べたい」
- 「過去12ヶ月の月別で、キャンペーン構造の変化と費用の推移を重ねて見たい」
こういう「標準ビューの組み合わせで作れそうで作れない集計」は、管理画面では意外とやりにくいものです。結局CSVエクスポートしてExcelで加工するか、Looker Studio や BigQuery に連携して自分でダッシュボードを組むかになる。どちらも一度作れば便利ですが、「ちょっと試したい」には重たすぎます。
広告運用って、実は「切り口を試行錯誤する」作業がけっこうな割合を占めています。「このキャンペーン、なんでCPAが上がってるんだろう」「あの広告グループだけ急にCTRが落ちたのはなぜだろう」みたいな問いに対して、仮説をいくつか立てて、それぞれの仮説を検証する集計を組んで、結果を見て次の仮説に移る、というループです。このループの回転速度が、分析の質を決めます。
管理画面はこのループを回すには切り口が固定的すぎるし、CSV加工はセットアップの重さでループが止まってしまいます。ここを埋めるものが欲しかった、というのがMCPに興味を持ったきっかけでした。
2. Google Ads MCP とは何か
Googleが公式に提供しているMCPサーバーが googleads/google-ads-mcp です。Google Ads API 公式ドキュメントの Google Ads MCP server: Developer integration guide からも辿れる、正真正銘の公式実装です。Claude Desktop や Gemini CLI といったMCP対応クライアントから、Google広告のデータを会話ベースで引けるようになります。
提供されているツールはシンプルで、基本的には以下の2つです。
list_accessible_customers:アクセスできる広告アカウントの一覧search:GAQL(Google Ads Query Language)でアカウント内のあらゆるデータを取得
GAQLはGoogle広告の持っているデータをSQL風に問い合わせる言語で、キャンペーン・広告グループ・キーワード・検索語句・オーディエンス・変更履歴などほぼ全部のリソースに対してクエリを組めます。管理画面の標準レポートで作れる集計は、ほぼ全部GAQLでも作れると思ってください。
ポイントは、Google公式実装は現時点で読み取り専用という点です。キャンペーンの作成や予算変更はできません。書き込みがしたい場合は有料のサードパーティラッパーを使うか、自前でGoogle Ads APIを叩くコードを書く必要があります。ただ分析用途ではむしろ読み取り専用のほうが安全で、「Claudeが暴走して広告を止めた」みたいな事故が構造上起こらないので、気楽に会話しながら掘れます。
無料で使える公式実装があるのに、有料のGoogle Ads MCPラッパーを提供する海外サービスもいくつか存在します。このあたりは「自分でセットアップする時間」と「お金で解決する選択肢」のトレードオフなので、お好みで。今回は公式実装を自前で組みました。
3. セットアップでハマったところ
手順の詳細は公式README に譲りますが、ここだけはハマりがち、というポイントを4つだけ残しておきます。これから試す方の参考になれば。
Developer Token の Basic Access 申請が意外とちゃんとしています。Google Ads APIを本番で叩くには、MCCアカウントに対して発行されるDeveloper TokenをBasic Accessに昇格させる必要があり、フォーム審査があります。申請時には「どういうツールを作って」「誰が使って」「何をするか」を英語で記述する必要があり、ここが雑だと落ちるらしいです。実際に申請したときは、設計ドキュメントの添付は求められず、フォーム本文の記述だけで数時間後に承認されました。
自前のOAuthクライアントが必要です。gcloud auth application-default login のデフォルト設定では、Google広告のスコープ(adwords)に対する認可がブロックされます。これはGoogleの仕様で、広告データのような強い権限は「自分で作ったOAuthクライアント」経由でないと取れないようになっています。GCPコンソールで「OAuthクライアントID(デスクトップアプリ)」を作成して、そのクライアントを指定して gcloud auth application-default login --client-id-file=... を叩く必要があります。
ADC発行時のスコープ指定も忘れやすいです。デフォルトのcloud-platformスコープだけでは広告データにアクセスできないので、--scopes=https://www.googleapis.com/auth/adwords,https://www.googleapis.com/auth/cloud-platform を明示的に指定します。
MCC配下のアカウントを触るには GOOGLE_ADS_LOGIN_CUSTOMER_ID が必須です。これが今回いちばんハマったポイントでした。MCCアカウント経由でクライアントアカウントにアクセスする場合、API呼び出し時に login-customer-id ヘッダでMCCのIDを送る必要があります。Claude DesktopのMCP設定で環境変数 GOOGLE_ADS_LOGIN_CUSTOMER_ID にMCCのID(ハイフン抜き)を渡さないと、「このアカウントに対するクエリには login-customer-id が必要です」というエラーで弾かれます。READMEにもちゃんと書いてあるのですが、初見だと見落としがちなので注意してください。
ざっくりこの4つを押さえておけば、あとは公式READMEどおりに進めばだいたい動きます。
4. MCP経由だと「どう掘れる」のか
ここからが本題です。セットアップができたら、実際に広告データを掘ってみます。ここで見えてくるのが、MCP経由でやる意味そのものです。
管理画面のレポートは、あらかじめ用意された切り口でしか見られません。一方MCP経由なら、GAQLを会話の中で組み立てられるので、「仮説→検証→次の仮説」のループで任意の切り口に降りていけます。実際に使ってみて特に有用だった掘り方を3つ取り上げます。
4-1. 月次推移で「何があった月」を特定する
半年〜1年スパンで、月別の配信状況を眺める掘り方です。
管理画面の標準ダッシュボードは「直近30日」基準の表示が多くて、数ヶ月前に何が起きていたかを俯瞰するのは意外とやりにくいです。でもMCP経由なら、
「過去12ヶ月の月別で、キャンペーン × cost × CV × CTR を表にして」
と頼めば、会話の中でテーブルが出てきます。
これをやると「ある月だけ配信がまるごと止まっている」みたいな異常値が一発で見えます。キャンペーンが止まっている月は、たいてい何か理由があります。代理店との関係が変わった、季節要因で戦略的に止めた、計測トラブルで一旦ストップしていた、などです。その穴の空いた月をきっかけに、過去の担当者やログを辿る取っ掛かりができます。
単独担当者のアカウントでも「あの月なぜか効率よかったよね」みたいな記憶ベースの話を数字で確認するのに使えます。
4-2. マッチタイプ別で「予算の暗黙の偏り」を見る
マッチタイプ単位での費用対効果を見る掘り方です。
Google広告のキーワードにはマッチタイプ(EXACT・PHRASE・BROAD)という設定があって、同じキーワードでもマッチタイプが違えば拾ってくる検索クエリは全然違います。そして同じキーワードでも、マッチタイプによって費用対CVは驚くほど差が出ることがあります。
でも管理画面の標準ビューは「キャンペーン単位」「広告グループ単位」「キーワード単位」で見せてくるので、「マッチタイプ単位の費用対CV」という集計軸は明示的には出てきません。ユーザー側で集計しないといけません。
MCP経由だと、
「全キーワードを対象に、マッチタイプ別で費用・クリック・CV・CPAを集計して」
の一言で出ます。見えてくるのは「予算の何割がどのマッチタイプに流れているか」という構造で、これが分かると運用の意図(あるいは無意図)が読めてきます。
たとえば「EXACT は想定CPAに収まっているのに、PHRASE は倍以上のCPAになっている」というケースはよくあります。これはPHRASEマッチが意図していないクエリまで拾っていて、その分の予算がリターンの低い流入に吸い取られている状態です。モニタリング対象外で放置されているケースが多い印象です。
4-3. 検索語句レポートで「自動拡張の暴走」を見る
三つ目が、検索語句レポートの深掘りです。個人的にはここが一番面白いパートでした。
Google広告の自動拡張機能(Broad Match、最近だと AI_MAX など)は強力な反面、意図しない検索クエリに広告が出ていることがあります。特に業務ツール向けのキーワードで起こりがちなのが、一般消費者向けの検索や、似た語感の別業界の検索にまで拡大解釈されるケースです。
具体例で考えてみます。たとえば勤怠管理SaaS の広告を運用しているとします。「勤怠管理」というキーワードをブロードマッチで登録してあって、なぜかCVがゼロの広告グループがあったとします。管理画面の集計を見るだけでは「なぜCV0なのか」は分かりません。クリックが少ないのか、LPが悪いのか、それとも検索意図がズレているのかの切り分けができません。
MCP経由だとClaudeに、
「この広告グループの直近90日の検索語句を、CV0のクエリだけ費用の多い順で出して」
と聞くだけで一覧が出てきます。
実際にやってみると、「勤怠管理 アルバイト 学生 書き方」とか「勤怠管理表 エクセル テンプレート 無料」みたいなクエリが上位に並んでいた、みたいなことが起きます。つまり『勤怠管理SaaSを導入したい企業の担当者』ではなく『無料でエクセル管理したい個人』に広告を配信してしまっていた、という真犯人が見えるわけです。
こうなると対処は簡単で、除外キーワードを入れるか、マッチタイプを EXACT に寄せるかです。分かってしまえば5分で終わる話ですが、問題は「分かるまでの経路」が管理画面だとめちゃくちゃ遠いことです。CV0の広告グループを見つけて、検索語句タブに行って、フィルタをかけて、並び替えて、ダウンロードして、エクセルで集計して……という手順を踏まないといけません。MCPだと会話の1往復です。
そして会話の中でそのまま「じゃあ除外KW候補のリストを作って」と言えば、除外KWのドラフトまで出てきます。ここが本当に速いです。
5. なぜ分析の粒度が変わるのか
ここまで見てきた3つの掘り方に共通しているのは、**「集計軸を事前に決めずに、会話の中で決められる」**という構造です。
管理画面のレポートは、いわば「よく使う切り口を事前に用意したダッシュボード」です。閲覧には速いのですが、切り口そのものを試行錯誤する用途には向いていません。「この切り口で見たい」が既に決まっているなら管理画面のほうが速いです。
CSVエクスポートという選択肢もあります。こちらは自由度は高いものの、セットアップのコストが毎回かかります。「あ、この集計軸も追加したい」と思うたびに、エクスポート→加工→再集計を繰り返さないといけません。
MCP経由の分析は、この中間を埋めます。
- 集計軸を会話で決められる(CSV加工の自由度)
- 結果を受けて次のクエリをすぐ組める(ダッシュボードの即時性)
- 「仮説→検証→次の仮説」のループが同じウィンドウの中で回る
分析の質は、このループをどれだけ速く回せるかに依存します。切り口を思いつくたびに集計のセットアップをやり直す必要がなくなると、思考の速度がそのまま分析の速度になります。ここが一番の変化でした。
6. 特に効く場面:運用の引き継ぎ
MCPの使い方として、日常の運用モニタリングにも使えますが、個人的に一番効くと感じたのは運用の引き継ぎの場面です。
代理店との契約が終わって広告アカウントを自社で引き継ぐとき、あるいは前任者が退職して現任者が引き継ぐとき、「何をどう運用していたのか分からない」状態から始まることが多いと思います。管理画面の「変更履歴」は直近30日までしか遡れないので、半年前に誰が何を変えたかは追えません。キャンペーン構造とキーワードだけが「化石」として残っていて、そこから運用者の意図を逆算するしかない、という状況になります。
この「運用意図のブラックボックス化」は引き継ぎ局面で重いペインで、再開戦略を立てたくても過去の実績の読み方が定まらないと、どのキャンペーンを生かすか・畳むかの判断ができません。結果として「とりあえず全部止めて、ゼロから作り直す」という雑な選択肢に流れがちで、過去の予算で積み上げた学びを丸ごと捨てることになってしまいます。
MCP経由だと、ここで紹介した3つの掘り方をひととおり回すだけで、過去半年〜1年の運用の輪郭がかなりクリアに見えてきます。月次の配信パターン、マッチタイプ別の予算配分、検索語句レポートで拾われていたクエリ。これらを会話の中で順番に見ていくと、「何を狙って何が効いた(効かなかった)か」がストーリーとして組み立て直せます。半日あれば、引き継ぎに必要な下地は作れる感覚です。
7. 気をつけたいこと
実務で使うにあたって、いくつか注意点を挙げておきます。
Developer Tokenは秘匿すること。MCCアカウントに紐づく強い権限なので、GitHub にコミットしたり、スクリーンショットに写したりしないようにしてください。万が一漏れたらGoogle Ads API Centerから即座にリセットできます。
login_customer_id** はMCC配下のアカウント触るときだけ必要**です。自分が直接所有している単独アカウントの場合は不要なので、エラーメッセージをよく見て判断してください。
Basic Access は読み取り専用で、キャンペーンの作成や予算変更はできません。個人的にはこれをむしろ健全だと捉えています。広告費という実害に直結する操作は、AIに任せきりにするのではなく、人間が自らの責任において設定する設計のほうが安心感があります。MCPは「読み取って分析して、次の一手をClaudeと一緒に考える」ところまでを担当し、実際に配信設定をいじるのは人間、という役割分担です。書き込み権限が必要になったら、そのときStandard Accessへの昇格申請を検討すればよいですが、分析が主目的であれば Basic Access のままで十分です。
プロンプトインジェクションのリスクは理論上あります。広告文や検索語句にClaude向けの指示文を仕込む攻撃が考えられますが、自社アカウントを自社で見る限り実害リスクはかなり低いです。外部から任意の広告文が入ってくるユースケース(たとえばクライアントの広告を預かるSaaS形式の運用)では、もう少し慎重になる必要があります。
まとめ
Google Ads をMCP経由でClaudeから触ると、広告データの分析粒度が一段変わります。管理画面の標準レポートでは組めない集計軸を会話ベースで作れるので、「切り口を試行錯誤する」というタイプの分析がぐっと軽くなります。日常のモニタリングにも使えますし、代理店や前任者からの引き継ぎ局面では特に効きます。
Google公式の実装が無料で使えるので、やってみたければ今日からでも始められます。セットアップは多少ハマりポイントがありますが、一度乗り越えれば応用範囲は広いです。
参考リンク
- Google Ads MCP server: Developer integration guide(Google Ads API 公式ドキュメント)
- googleads/google-ads-mcp(GitHubリポジトリ)
Kumonoでは、こうした「AIを使って業務の見えなかった部分を可視化する」取り組みをクライアントワークとして支援しています。Google広告以外にも、社内のナレッジ、会計データ、BIツール、顧客インタビューのログなど、MCPと相性の良い業務領域は広がっています。もし「うちの業務もこういう切り口で整理できないかな」と思うことがあれば、気軽にお問い合わせください。
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