ユーザーインタビューをしていると、こちらが質問を投げる前から、堰を切ったように話し始める相手に出会うことがあります。
段取りや質問表を事前に準備していたのに、相手は、まだ趣味の話をしている段階でいきなりサービスへの要望を語り出し、そこから家族の話、最近困っていること、別サービスの話へと飛んでいってしまうと、つい「インタビューが崩れた」と焦ってしまいませんか?
でも実際には、これは失敗ではなく、むしろいいインタビューになる入り口だったりします。話しすぎるユーザーは、進行を壊す人ではなく、価値観の露出が早い人だからです。
この記事ではニッチですが、上記のようなみずから喋りすぎるユーザーとのインタビューを、失敗にしない方法について解説します。
こんな方におすすめ
- ユーザーインタビューを自分で設計し、自分で実施している方
- 段取りを決めたのに、相手の脱線で会話が回らなかった経験がある方
- 「いい話は聞けた気がするけど、事業に使える形にならなかった」と感じたことがある方
N1インタビューの基本的な考え方や手順については、以下の記事で詳しく書きました。
話しすぎるユーザーは、進行を壊す人ではない
順番を無視して先に話し出す人は、それだけ伝えたいことを抱えている人でもあるのですが、要望も、自分なりの仮説も、こちらが質問する前からどんどん表に出てきます。
一見すると脱線に見えますが、その中には、その人が何に反応しているのか、何を期待しているのか、何に不満を持っているのかがかなり早い段階で出ることが多いです。
たとえば、ある語学学習アプリのユーザーは、生活背景を聞いている段階から「旅行で使えるフレーズをもっと増やしてほしい」と要望を話し始めました。
その発言だけを聞くと、「旅行会話のレッスンを増やすべき」という要望に見えますが、話を聞き続けると、重要だったのは要望そのものではありませんでした。
見えてきたのは、その人にとってそのアプリが「語学をきちんと習得する場所」というより、「夜の自分時間に、いろんな世界を浅く広くのぞく場所」になっているということでした。
このような場合に掘っていく質問は「旅行フレーズがほしいですか?」ではなく、その要望がどんな生活文脈と利用行動から出てきたのかです。
話しすぎるユーザーは、進行を壊しているのではなく、むしろこちらがまだ聞いていない論点を、先に出してくれているだけです。
順番は相手に明け渡しても、網羅性と因果は握る
このような相手に対してどう向き合うべきでしょうか。
ひとつの答えは、順番を手放すことです。質問票は持っておくけれど、その順番どおりに消化しようとはしない。相手が話したい順に話してもらう。
順番を手放す代わりに、網羅性と因果は握り続けます。
相手の語りを聞きながら、頭の中ではずっと地図を描いておきます。
- いまの話は、時系列のどこに入るのか
- この感情は、どの体験から出てきたものなのか
- この要望は、実際の行動に根ざしているのか
- 事実と解釈が混ざっていないか
- まだ聞けていない論点はどこか
会話が一段落したら、その地図を見ながら、埋まっていない穴だけを拾いに行きます。
初心者ほど「次にどの質問をするか」を管理しようとしてしまいがちですが、本当に管理すべきなのは質問の順序ではなく、必要な論点が抜けていないか、発言の前後関係が見えているか、相手の評価がどの体験に根ざしているかです。
順番は相手に明け渡しても、網羅性と因果だけは手放さない。これが、話量の多いユーザーに向き合うときの基本になります。
発言は、生活文脈と行動とセットで解釈する
ユーザーの発言には、事実、感想、解釈、要望、一般化が混ざっています。
例えば「もっと旅行フレーズがほしい」と言われたからといって、そのまま「旅行会話のコンテンツを増やせばよい」と解釈するのは早いです。
その発言がどんな生活文脈や利用行動から出てきたのかに注意すうる上でインタビューの序盤で聞く生活背景が重要になってきます。
年齢、家族構成、仕事、生活リズム、趣味。こうした話は、冒頭でテンポよく質問するアイスブレイクとしてだけではなく、後半に出てくる利用実態や要望を読むための足場になります。
例えば、同じ「見るだけで楽しい」という発言でも、生活文脈がなければ、ただのライトユーザーの感想に見えますよね。でもその人の日常のどこにアプリが入り込んでいるのかが見えていれば、「学習」ではなく「気分転換」や「自分時間」として使われていることがわかる、と言った具合です。
この違いは、プロダクト改善においてかなり大きいです。
また、抽象的な評価語も、そのまま受け取らず行動に戻します。
- 楽しい
- 便利
- 飽きそう
- 使いやすい
こうした言葉は事業に使える情報にするには、「いつ」「どこで」「どうやって」「何を見て」「どこでやめたのか」まで戻してあげる必要があります。
たとえば「いろんなレッスンが見られて楽しい」と言われたら、「どうやってアプリを開いて、どうやって“これにしよう”までたどり着くんですか」と聞くことで、検索して探すのか、一覧を眺めるのか、最初の数分だけ見るのか、最後までやるのかが見えてきます。
評価語を行動に戻すと、ただの感想が、改善に使える情報に変わるのです。こうした具体への戻し方は、「3桁のインタビューで学んだ本音を引き出すユーザーインタビュー小技集」でも実践的なテクニックとしてまとめています。
途中でぽろっと漏れた一語を覚えておくことも大事です。
あるインタビューでは、中盤でユーザーが「飽きちゃうかも」と漏らしました。その場では深追いせず、後半で改めて拾い直すと、「自分の興味に合うジャンルが増え続けないと、数ヶ月で解約するかもしれない」という継続条件が見えてきました。
重要なのは、コンテンツの総数ではありませんでした。本人の気分に合うジャンルが、増え続けているように感じられることでした。
投げ捨てられた一語の中に、事業上の重要な示唆が落ちていることはよくあります。
ログは、問い詰めるためではなく迷子にならないために使う
可能であれば、事前にその人の行動ログを見てからインタビューに臨むようにしたいです。
人は、自分の体験を記憶の中で編集してしまいます。本人が語る入会動機と、実際の初回行動が食い違うことは珍しくありません。
ユーザーが「広告を見て、会話の練習ができそうだと思って入った」と話していても、実際に最初に再生していたのは別ジャンルの基礎レッスンだった、ということは頻発します。
これは矛盾ではありません。
入会前に期待していたことと、入会後に探索したことが違うだけで、本人の中で意味づけされたストーリーと、行動の痕跡としてのログがどちらもあるということです。どちらか一方が正しいのではなく、二つを重ねることで人物像が立体的に見えてきます。
気をつけたいのは、ログを矛盾の指摘に使わないことです。
「でも実際にはこうしていましたよね」と問い詰めると、相手は防御的になります。インタビューは取り締まりではないですから、ログは相手を詰めるための武器として振りかざさないようにしたいです。
事前ログがあると、話が飛んでも現在地を見失わずにすみますし、相手の語りと行動の痕跡を重ねながら、「この人はなぜそう感じたのか」を読み解きやすくなります。
一番難しいのは、戻すか流すかの判断
ただし、いつでも戻せばいいわけではありません。
ここが一番難しいところです。
インタビュー中のエネルギーの出方は、人によって違います。
最初から言いたいことが溢れている人もいれば、話しながら徐々に言葉が立ち上がってくる人もいます。
前のめりに話す人は、前半にかなりの情報を放出するものですから、その人にとっての本番は、むしろ前半にあります。後半になると、もう出すものがなくなっていて、思考の体力も残っていないことも多いです。
そういう状態で「みんなそうだと思いますよ」と主語が大きくなり始めたら、それは深掘りのチャンスではなく、本人の具体が出尽くして一般論でまとめに入ったサインかもしれません。
その場合は、無理に詰めない方がいいかもしれません。疲れた相手を問い詰めても、精度の高い話は出ません。むしろ撤退も設計のうちとして、気分よく終わってもらうようにします。
一方で、じっくり考えるタイプの人は逆のカーブを描きます。
前半は探り探りで、後半になってようやく本人の中でも言語化されていなかったことが出てくる。こういう人が終盤に一般論を言い始めたときは、疲れではなく、頭の中で構造化が始まったサインかもしれません。
前のめりに話してきた人が終盤で言ったなら、引いていいかもしれないし、じっくり考える人が終盤で言ったなら、戻しに行く価値があるかもしれない。といった形で相手のエネルギーの出方に合わせるようにしたいです。
逆に、そもそも言葉が出てくるまで時間がかかる、あまり喋らないユーザーへの向き合い方は以下の記事で解説しています。
相手のエネルギーを、こちらが動かしてしまうこともある
もうひとつ注意したいのは、相手のエネルギーは、インタビュアー側の振る舞いにも影響されるということです。
たとえば相槌です。
相槌は相手に安心感を与える一方で、発話を加速させるアクセルにもなります。話量の多い相手に大きくうなずき続けると、相手は「もっと広げていい」と感じ、話がさらに横へ広がっていきます。
もちろん、相手を安心させたい場面ではそれでいいです。
ただ、すでに十分な情報が出ていて、こちらが抜けている穴を埋めたい場面では、相槌を少し減らして、短い問いだけを置く方がよいことがあります。あるいは、あえて黙る。その沈黙が、相手に次の具体を差し出させることもあります。
評価語にも注意が必要です。
- 面白いですね
- なるほど
- いいですね
こうした言葉はラポールを作るには便利ですが、連発すると相手を無意識に「ウケる回答探し」の方へ寄せてしまうことがあります。
相手の自然な体験を聞いているつもりが、いつのまにか相手が「いい話」をサービス精神で探し始めてしまう、という副作用が生じてしまうことがあります。
- いま相手を加速させたいのか
- 少し落ち着かせたいのか
- 具体に戻したいのか
- 気分よく終わってもらいたいのか
それによって、同じ相槌も、同じ沈黙も、同じ評価語も使い方が変わります。
相手のエネルギーを読むだけでなく、自分の振る舞いがそのエネルギーをどう動かしているかまで見る。ここは、人間のインタビュアーならではの付加価値といえるかもしれません。
まとめ
ユーザーが話しすぎると、インタビューが崩れたように見えることがあります。
でも実際には、そこにこそ、その人が何に反応し、何を期待し、何に飽きそうなのかが出ています。
こちらの仕事は、話を止めることではありません。相手の語りをいったん受け止めたうえで、その言葉が生まれた生活文脈と行動に戻していくことです。
順番は相手に明け渡してもいい。 ただし、網羅性と因果だけは握り続ける。 戻すか流すかは、相手のエネルギーの出方を読んで決める。
型を配るのではなく、相手を読む。 喋りたがりを型に押し込まないのと同じように、インタビューの進め方そのものも型だけでは決められません。
ユーザーの語りを尊重しながら、それを事業に使える構造へ変換していく。
それが、N1の声を扱うときに重要な姿勢となると言えると思います。
インタビューで得られた語りを、顧客の状況、欲求、離脱要因、意思決定のクセとして整理し、施策やプロダクト改善に接続してはじめて、事業に使える顧客理解になります。
Kumonoでは、N1インタビューや行動データ分析を起点に、顧客理解を施策、プロダクト改善、事業成長につなげる支援を行っています。
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