ユーザーインタビューをやっていると、こちらが質問を投げる前から堰を切ったように話し始める相手に必ずぶつかります。

段取りはこちらで組んであって、まずは生活背景を聞いてから、サービスとの出会い、初めて使ったときの印象、いまの使い方、と時系列で登っていくつもりでいる。なのに相手は、まだ趣味の話をしている段階でいきなり「このアプリにもっと旅行で使えるフレーズのレッスンを増やしてほしい」と要望を語り出し、そこから子どもの就職や飼っている犬の旅行先、近所づきあいへと話が飛んでいって、用意した質問票はほとんど出番がないまま時間が過ぎていきます。

こういうとき、つい「いまその話じゃないんだけどな」と思ってインタビューが崩れたように感じてしまうのですが、これは失敗ではなくて、むしろいいインタビューになる入り口だったりします。

ただ、最初に断っておくと、この記事で言いたいのは「話を遮らずに戻しましょう」というだけのことではありません。本当に難しいのは、戻すべきタイミングと、戻さず流した方がいいタイミングを見極めるところで、そこで読むべきなのは質問票ではなく相手のエネルギーの出方だ、というところまで含めて書いていきます。

こんな方におすすめ

  • ユーザーインタビューを自分で設計して、自分で実施している方
  • 段取りを決めたのに、相手の脱線で会話が回らなかった経験がある方
  • 「いい話は聞けた気がするけど、事業に使える形にならなかった」と感じたことがある方

喋りたがりは、進行を壊してしまうのか?

順番を無視して先に話し出す人は、それだけ伝えたいことを抱えている人なので、要望も自分なりの仮説も、こちらが質問する前からどんどん表に出てきます。流量が多いぶん、むしろ一次情報が出やすい相手だと考えた方がいいと思っています。

実際、ある語学学習アプリのユーザーである50代の女性に話を聞いたときも、彼女は生活背景を尋ねている段階からそのアプリへの要望を次々に語り出しました。一見すると脱線なのですが、その脱線の中に「夜、寝る前のリラックスタイムとして見ている」「レッスンを最後まで終わらせるより、いろんなコンテンツを選んで眺めること自体が楽しい」「浅く広く、その日の気分で選びたい」という彼女の利用実態がほぼ全部入っていて、質問票どおりに順番を守って進めていたら、かえって取り逃がしていたかもしれません。

話しすぎるユーザーは、進行を壊す人ではなく、価値観の露出が早い人なんですよね。

とはいえ、話されたことをそのまま受け取ってもいけません。ユーザーの発言には事実や感想、解釈、要望、一般化が混ざっているので、「もっと旅行フレーズがほしい」と言われたからといってそのまま「旅行会話のレッスンを増やせばいい」と読むのは早くて、見るべきなのはその発言がどんな生活文脈や利用行動から出てきたのかという構造の方です。

順番は相手に明け渡しても、網羅性と因果の手綱は握る

ではどう受けとめて対処すべきでしょうか。ひとつの答えは、順番を手放してしまうことです。質問票は持っておくけれど、その順番どおりに消化しようとはせず、相手が話したい順に話させてしまう。

ただ、何もかも手放すわけではなくて、手放すのは順番だけで、代わりに網羅性と因果は握り続けます。相手の語りを聞きながら、頭の中では「いまの話は時系列のどのピースか」「この感情はどの体験から出てきたものか」をずっと地図に置いておいて、会話が一段落したところで、まだ埋まっていない穴だけを拾いに行く感じです。

順番を諦める代わりに、網羅性と因果だけは絶対に手放さない。これがいちばんの軸だと思っています。

初心者ほど「次にどの質問をするか」を管理しようとするのですが、本当に管理すべきは質問の順序ではなく、必要な論点が抜けていないか、発言の前後関係がわかっているか、相手の評価がどの体験に根ざしているか、事実と解釈が混ざっていないか、の方です。会話の中で情報の構造をリアルタイムに組み替えていく感覚に近いと思います。質問票を「台本」ではなく「地図」として持つ、という意味では、これは半構造化インタビューの考え方そのものでもあります。

生活文脈は、後の語りを読むための足場

ここで活きてくるのが、序盤で聞いた生活背景です。

インタビューの冒頭で年齢や家族構成、仕事、生活リズム、趣味を丁寧に聞いていくのを単なるアイスブレイクだと思っている人は多いのですが、実際にはもっと実利があって、あとで出てくる利用実態を解釈するための足場になります。

さきほどの女性の「見るだけで楽しい」という発言も、足場があると意味が変わって見えてきます。子育てが一段落して、自宅で家業を手伝っていて、夜も仕事に追われることがあって、自分の時間がほしいけれど外に習い事に通う余裕はない、という背景を先に聞いていたからこそ、彼女にとってその語学アプリが「語学をきちんと習得する場所」ではなく「夜の自分時間に、いろんな世界を浅く広くのぞく場所」になっていることが読み取れました。

足場がないままだと「見るだけで楽しい」はただのライトユーザーの感想で終わってしまいますが、足場があれば、それが生活のどこにはまっているのかまで見えてきます。後半の脱線を解釈できるかどうかは、序盤でどれだけ足場を作れたかで決まってくるんですよね。

会話中の交通整理のコツ

順番を相手に明け渡すといっても、乗りっぱなしでは雑談になってしまうので、受け止めながら必要なところで流れに戻していきます。やり方はいくつかあります。

ひとつは、預かることです。相手が先の話を始めたら、遮らずに「なるほど、面白いですね。その話は後ほどぜひ伺えれば」と受けてから元の流れに戻す。「いまその話じゃない」と否定するのではなく、「その話は大事そうなので、あとでちゃんと聞きます」と一度預かるわけです。ここで大事なのは、預かったら必ずあとで回収することで、口約束で終わらせてしまうと相手は「結局聞いてくれなかった」と感じます。

もうひとつは、時間を巻き戻すことです。話が現在の感想に飛んでしまったら、「ごめんなさい、少し前の話に戻るんですけど」と軽くひとこと置いてから戻りたい地点を明示すると、クッションがはたらいて、相手も一緒に時間を巻き戻してくれます。話したがりの人ほど「いまの感想」に飛びやすいので、「いつからそうなったのか」に引き戻すと、話の時系列がきれいにつながっていきます。

コツは、一回乗ってから戻ることです。守りすぎると相手の熱量が死んでしまうし、乗りっぱなしだと情報が散らかってしまうので、その中間を狙う感じになります。

事前ログを地図として使う

この交通整理を支えてくれるのが、事前の準備です。

人は自分の体験を記憶の中で都合よく編集するもので、さきほどの女性も「このアプリを知ったきっかけは何だっけ、忘れちゃった」と言っていました。本人が語る入会動機と実際の行動が食い違うのは、珍しいことではありません。

なので可能なら、その人の行動ログ(再生履歴や利用履歴)を事前に見てから臨むようにしていて、そうすると会話の中で「最初に再生したのは、実は基礎文法のレッスンでしたよね」と現在地を確認できます。

気をつけたいのは、これを矛盾の指摘に使わないことです。彼女の場合も「入ったきっかけは”聞き流しで会話が身につく”というインスタの広告」「でも最初に再生したのは基礎文法のレッスン」というズレがありましたが、これは矛盾ではなくて、入会の動機と入ったあとの探索行動が違うというだけで、どちらも事実なんですよね。本人の中で意味づけされたストーリーと、行動の痕跡としてのログがあって、どちらか一方が正しいというより、二つを重ねたときに人物像が立体的に見えてきます。

事前ログは相手を問い詰める武器ではなく、こちらが迷子にならないための地図で、準備があって初めて成り立つ一手だと思っています。

抽象語は行動にしつこく戻してあげる

ユーザーの発言でよく出てくるのが「楽しい」「便利」「飽きそう」といった抽象的な評価語なのですが、こういう言葉はそのままだと浅くて、具体的な行動に戻して初めて事業に使える情報になります。

たとえば「いろんなレッスンが見られて楽しい」と言われたときに「楽しいんですね」で受けてしまうと何も残らないので、「どうやってアプリを開いて、どうやって”これにしよう”までたどり着くんですか」と行動の方を聞きます。すると、夜の風呂上がりのタイミングで開くこと、検索で目当てのジャンルを探すこと、最初のポイントだけ見て途中でやめることもあること、そして「選んでいる時間そのものがいちばん楽しい」ことまで出てきて、評価ではなく行動を聞くと、プロダクト改善に直結する情報に変わってきます。「いつ」「どこで」「どうやって」と行動の文脈を引き出していくデプスインタビューのやり方を、評価語が出るたびに小さく挟んでいく感じに近いです。

途中でぽろっと漏れた一語を、覚えておくのも大事です。彼女は会話の中盤で「飽きちゃうかも」と漏らしていて、そのときは流したのですが、後半で「どういうときに飽きそうだと感じますか」と拾い直したところ、「自分の興味のあるジャンルのコンテンツが増えていかないと、数ヶ月で飽きて解約するかもしれない」という、このインタビューでいちばん重い事業示唆が出てきました。継続の条件はコンテンツの総数ではなく、自分の気分に合うジャンルが増え続けることだったわけです。投げ捨てられた一語の中に宝が落ちていることは、けっこうあります。

もうひとつ、利用の「種類」を分解する問いも紹介しておきます。彼女はずっと「見るのが楽しい」と言っていたのですが、別で使っている語学のサービス(毎日決まったレッスンを順番にこなすタイプ)の話になると「音声に合わせて声に出して練習している」と言う。そこで「もしこのアプリに発音やシャドーイングのレッスンがあったら、それは眺める枠になりますか、それとも声に出して一緒にやる枠になりますか」と聞いてみたら、ドラマやネイティブの会話動画は眺めて気分転換する鑑賞型、発音やフレーズの練習は声に出して一緒にやる実践型、というふうにジャンルごとに利用モードが割れていることが見えてきました。

この分解がけっこう大きくて、彼女を「眺めるだけのライトユーザー」と切ってしまうと浅い解釈になってしまいます。実際にはやる気がない人ではなく、やりたくなるジャンルが違う人で、いまはそのジャンルの厚みが足りていないだけだった。ここまで届くと、単なるインタビューの記録ではなく、プロダクトの示唆になってきます。

一番むずかしいところ

ここまでは「抽象語が出たら具体に戻す」「一般論が出たら本人の体験に戻す」という話でしたが、これは基本としては正しいものの、いつでも戻せばいいわけではありません。冒頭で予告した、いちばん難しいところに入ります。

インタビュー中のエネルギーの出方には傾向があって、最初から言いたいことが溢れている人もいれば、話しながら徐々に言葉が立ち上がってくる人もいます。

伝えたいことを抱えている喋りたがりの人は、たいてい前半に前のめりで放出してしまうので、その人にとっての本番は前半です。だから後半、自分が用意していなかった角度の質問を突かれると、もう出すものがなく、思考の体力も残っていなくて、ふわっとした答えになりがちです。終盤になって「女の人はみんなそうだと思いますよ」と主語が大きくなり始めたら、それは追加で深掘りできるチャンスというより、本人の具体が出尽くして一般論でまとめに入ったサインかもしれません。そういうときは無理に詰めず、軽く流して気分よく終わってもらう方がよくて、撤退も設計のうちなんですよね。疲れた相手を問い詰めたところで関係が悪くなるだけだし、どうせ精度の低い一般論しか返ってきません。

一方で、じっくり考えるタイプの人は逆のカーブを描きます。前半は探り探りで、後半になってようやく本人すら意図していなかった発見が言葉になって出てくるので、この人が終盤に一般論を言い始めたら、それは疲れではなく頭の中で構造化が始まったサインかもしれない。だったらそこでこそ「あなた自身の場合は、どんなときにそう感じますか」と具体に戻す価値があります。

つまり、同じ「女の人はみんなそう」という発言でも、誰が、いつ、どんなエネルギー状態で言ったかによって処置が真逆になるわけです。喋りたがりが終盤で言ったなら引いていいし、熟考型が終盤で言ったなら戻しに行く。

なので「前半に勝負をかけろ、後半は薄くていい」と一律に決めてしまうのも、また違います。それも結局ひとつの型で、大事なのは、その人がいま出し切ったあとなのか、まだ言葉が立ち上がっている途中なのかを会話しながら読み続けることです。読むべきは時計ではなく、相手のエネルギーの出方なんですよね。

念のため補足すると、人を「前のめり型」と「熟考型」にきれいに二分できるわけではありません。同じ人でも話題によってエネルギーの出方は変わるので、これは型として覚えるものではなく、目の前の相手を観察するための補助線くらいに思っておくのがちょうどいいと思います。

自分で失速を作ってしまう瞬間

相手のエネルギーの出方を読むという話をしてきましたが、最後に、そのエネルギーをこちら側が動かしてしまっていることもある、という視点を入れておきます。インタビュアー自身の振る舞いが、相手のカーブに影響してしまうことがあるからです。

ひとつは相槌です。相槌は相手の安心材料になる一方で、発話を加速させるアクセルにもなるので、喋りたがりの相手にうなずきを重ねると、相手は「もっと話していい」と感じてどんどん話を広げていきます。すでに十分に情報が出ている場面では、相槌をあえて減らして短く問いだけを置く方がよかったりして、穴を埋めたい局面ではむしろ黙ってしまった方がよくて、その沈黙が相手に次のピースを差し出させることがあります。この相槌の使い分けや沈黙の置き方そのものは、3桁のインタビューで学んだ小技集の方にもう少し具体的にまとめてあります。

もうひとつは評価語です。「面白いですね」「なるほど」はラポールを作るにはいいのですが、連発すると相手を無意識に「ウケる回答探し」の方へ寄せてしまいます。エネルギーが残っているうちはいいものの、終盤の疲れた場面で評価語を重ねると、相手は深掘りに耐えるより「みんなそうだと思います」と大きな話にまとめて応えやすくなってしまうんですよね。

これはインタビューが下手だという話ではなく、上級者でも普通に起こる副作用で、要は場面ごとのチューニングの問題です。いま相手を加速させたいのか、落ち着かせたいのか、それを意識するだけで、同じ相槌も同じ「面白いですね」も使いどころが変わってきます。相手のエネルギーを読んで自分の振る舞いを変えていくこの部分こそ、人間のインタビュアーに残る仕事だと思っていて、その話はAIにインタビューされて気づいたことを書いた記事で別途ふれています。

まとめ

ユーザーが話しすぎると、インタビューが崩れたように見えることがありますが、実際にはそこにこそ、その人が何に反応して、何を期待して、何に飽きそうなのかが出ています。

こちらの仕事は話を止めることではなくて、いったん預かってから、その言葉が生まれた生活文脈と行動に戻していくことです。順番は相手に明け渡しても網羅性と因果だけは握り続けて、戻すか引くかは相手のエネルギーの出方を読んで決めればいいんです。

型を配るのではなく、相手を読む。喋りたがりを型に押し込まないのと同じように、インタビューの進め方そのものも型では決めない。ユーザーの語りを尊重しながら、それを事業に使える構造へ変換していく。それが、N1の声を扱うときにいちばん大事になる姿勢だと思っています。

インタビューは、話を聞いて終わりではありません。そこで得られた語りを、顧客の状況・欲求・離脱要因・意思決定のクセとして整理し、施策やプロダクト改善に接続してはじめて、事業に使える顧客理解になります。

Kumonoでは、N1インタビューや行動データ分析を起点に、顧客理解を施策・プロダクト改善・事業成長につなげる支援を行っています。 顧客の声を聞いているのに、なぜか施策に落ちない、とかインタビューはしているが、データと合わせて意思決定に使える形になっていないといった課題がある場合は、ぜひ当社のサービスページもご覧ください。

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