目次
相談するユーザーインタビューには、みずから喋りすぎるタイプとちょうど逆の相手がいます。
質問しても、返ってくるのは一言か二言、というユーザーさんに遭遇したことはありませんか?
例えば、「どうでしたか」と聞けば「楽しかったです」、「なぜ続けているんですか」と聞けば「うーん、なんとなく」といった具合で、沈黙も長い…。
気がつくと、こちらばかり喋っていて、相手の言葉がほとんど手元に残っていない、という経験に心当たりはないでしょうか?
このようなユーザーさんに遭遇すると、つい「この人はあまり考えていないのかな」「サービスに思い入れがないのかな」と感じてしまうのですが、実はたいてい誤解です。
この記事で言いたいのは「うまく喋らせるテクニック」ではありません。
無理に喋らせないままインサイトをどう抽出するかの技術にフォーカスをあてていきます。
この記事を読むことで、本当に難しいのは、沈黙を待つべきか、こちらから言葉を差し出すべきかの見極めで、その手前に「相手の思考を信頼する」という心構えがあるよ、ということを理解いただけるとおもいます。
こんな方におすすめ
- ユーザーインタビューを自分で設計して、自分で実施している方
- 相手の返答が短くて、深い話が引き出せずに終わった経験がある方
- 沈黙が怖くて、つい自分が喋って埋めてしまうクセがある方
あまり喋らない人は、情報を持っていないのか?
結論から言うと、あまり喋らない人は、情報量が少ない人ではありません。自分の体験を、自分から長い言葉にして構造化するのが負荷の高い人、というだけのことが多いです。
喋りすぎる人の記事では、話しすぎるユーザーを「価値観の露出が早い人」と捉え直しました。それと対にして言うなら、あまり喋らない人は「価値観の露出が遅い人」です。ないのではなく、出てくるまでに時間がかかる。こちらが掘る順番と粒度を間違えると、本人の中にはあるのに、最後まで表に出てこないまま終わってしまいます。
ある語学学習アプリのユーザーである50代の女性に話を聞いたときが、まさにそうでした。返答はどれも短くて、最初のうちは「楽しかったです」「特には」くらいしか返ってこない。でも、聞き方を変えながら一時間ほどかけていくと、「このアプリは上達のためではなく、夜に自分が落ち着くための時間を作る道具だった」という、けっこう深いところまで見えてきました。喋らなかったのではなく、言葉が立ち上がるまでに足場が必要だっただけだったのです。
オープンな質問だけで粘らない
あまり喋らない人に対して、「どうでしたか」「なぜですか」「どう思いましたか」を連発すると、かなりの確率で浅く終わってしまいます。
漠然と大きな問いは、答え方の自由度が高すぎて、どこから話せばいいのか分からなくなってしまうからです。
それを避けるために、問いを階段のように小さく分解していきます。いきなり「なぜ続けているんですか」ではなく、「いつ開くことが多いですか」「それは家のどこでですか」「開いてから、最初に何をしますか」と、時間・場面・行動に割って聞いていくのがコツになります。
先ほどの例のユーザーさんも、「どう使っていますか」では言葉が出てこなかったのに、「夜は何時ごろですか」「テレビはついていますか」と刻んでいくと、「仕事から帰って、夜にテレビをつけながら、その横でアプリの音声を流している」という具体が出てきました。
抽象的な問いに答えてもらうのではなく、本人が事実として答えられる粒度まで、こちらが先に下げてあげる。これが、あまり喋らない人への最初の足場かけになります。「いつ」「どこで」「どうやって」と行動の文脈を細かく聞いていくやり方は、デプスインタビューで使う4W1Hの考え方そのものでもあります。
沈黙は、相手が考えている時間だと信頼する
この記事でいちばん伝えたい章なのでぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
あまり喋らない人、返答までの間が空く人、端的にしか答えない人を前にすると、こちらは沈黙が怖くなって、つい次の質問や言い換えをかぶせてしまいます。でも、間が空くのも端的に答えるのも、関心がないからでも言葉がないからでもなく、誠実に考えて答えようとしているサインのことが多いんですよね。むしろ、短くしか答えない人ほど、その一言にたどり着くまでにちゃんと考えていたりします。
私は、あまり喋らない相手のときほど、辛抱強く、相手を信頼して、あえて間を差し出すようにしています。これは「待った方がいい言葉が出るから」という計算だけの話ではありません。相手が考えている最中にこちらが助け舟を出すのは、「もう適当でいいですよ」と暗に伝えてしまうことでもある。逆に、黙って待つことそのものが「あなたの言葉を待っています」という合図になって、相手はより誠実に答えようとしてくれます。間は、埋めるべき空白ではなくて、信頼を伝える余白でもあるのです。
そのうえで、待つか、こちらから言葉を差し出すかをどう分けるか。正直これはその場できれいに見分けられるものではありません。相手が考えている沈黙なのか、問いが大きすぎて固まっている沈黙なのかは、待ってみるまで分からないことの方が多いのです。
じゃあどうするんだ、という話ですが実務的には、順番を決めておくのがいいと思っています。まず数秒、黙って待つ。「えっと」「なんて言うんだっけ」と言葉の断片が出てくるなら、それは考えている途中なので、そのまま待つ。断片すら出てこなくて、明らかに問いの大きさで固まっているようなら、そこで初めて選択肢や比喩を差し出す。
待つを先、埋めるを後にするのには理由があります。先回りして埋めてしまうと、本人の言葉が出てくる前に、こちらの言葉で会話が固定されてしまう。一度こちらの語彙で枠を作ると、相手はもうその枠の中でしか答えなくなります。待ちすぎて気まずいことのコストより、埋めすぎて本人の言葉を殺すことのコストの方が、リサーチでは高くつきます。この相槌の引き方や沈黙の待ち方そのものは、3桁のインタビューで学んだ小技集の方にも具体的にまとめてあります。
仮説は「当てる」ためではなく「違う」と言ってもらうために置く
待っても言葉が出てこないとき、こちらから仮説を差し出すのは有効です。ただし、ここに落とし穴があります。仮説を置くほど、相手は「はい」と答えやすくなる。あまり喋らない人ほど、こちらの言葉に乗って「そうですね」と返してしまいがちで、そうなると本人の感覚ではなく、こちらが用意した答えを確認しているだけになってしまいます。
仮説は当てにいくものではなく、相手に訂正してもらうために置くもの、と考えておくとちょうどいいかもしれないです。
先ほどのユーザーインタビューの例で、いちばん象徴的だった場面があります。彼女は同じ音読の素材を二十回以上繰り返していて、毎日それを流しながら自分も声に出している、という話でした。私はそこで「それだけ繰り返しているなら、すごく上達したんじゃないですか」と聞いたんです。上達を実感したくて続けているんだろう、という仮説でした。
ところが彼女は、「いえ、上達したいというより、声に出している時間が落ち着くんです。正解を目指している感じではなくて」と押し返してきました。仮説は外れたわけです。でも、外れたからこそ、その先が見えた。「お寺で写経をするようなイメージですか」と置いてみると、「それの語学版です」と、今度は自分の言葉で引き取ってくれた。彼女にとってこのアプリは、語学を上達させる教材ではなく、夜に集中して心を落ち着けるための時間を作る道具だった、という核心は、仮説が外れた地点から出てきたものです。
仮説を置くこと自体は、悪いことではありません。むしろ、外れた瞬間に本当の価値が見えることがある。ただしそのためには、相手が遠慮なく「違います」と言える置き方になっていないといけません。「つまり、上達したいんですよね」と閉じてしまうと、相手は否定しづらい。「もしかすると上達を実感したいのかなと思ったんですが、違いますか」と、訂正の余地を残して置く。仮説は、当てるためではなく、外してもらうために差し出すものなんですよね。
短い答えは、比べてもらうと意味が出てくる
あまり喋らない人に「なぜですか」を聞くより、「AとBでは何が違いますか」と比べてもらう方が、言葉が出てくることがあります。ゼロから理由を説明するのは負荷が高いけれど、二つの差分を答えるだけなら答えやすいからです。
同じ女性は、音読の素材については「新しいものを増やしてほしいとは思わない、同じものを繰り返して、その時間に触れているのがいい」と言う一方で、別で少しやってみた文法ドリルについては「もっといろんなパターンを練習したかったのに、問題の数が少なかった」と話していました。同じアプリの中の、同じ「学ぶ」コンテンツなのに、片方は繰り返しで満足、片方はパターン不足だと物足りない。
そこで「音読は繰り返しでよくて、ドリルはもっとパターンがほしかったんですね。その違いって、落ち着く時間がほしいのか、上達したいのか、の違いに近いですか」と差分で聞いてみると、「そうです、そんな感じ」と整理が進みました。一人のユーザーの中に、癒しを求めるモードと、上達を求めるモードが同居していて、コンテンツのジャンルによって求めているものが違う。「コンテンツが少ない、もっと増やすべき」と一枚岩でまとめていたら、ここは見えなかったところです。
生活文脈は、少ない言葉を厚く読むための足場
これは喋りすぎる人の記事でも書いたことですが、序盤で取る生活背景は、あまり喋らない人の場合はさらに大事になってきます。短い発言を、生活文脈の上に置き直して、厚く読むためです。
「楽しかったです」は、それ単体では感想で終わります。でも、仕事から夕方に帰ってくること、夜が唯一の自分の時間であること、家ではテレビがほぼつけっぱなしであること、YouTubeは時間が溶けるのが嫌で見ないこと、といった背景の上に置くと、「音読が楽しい」は急に意味を持ち始めます。彼女にとってそれは、無為に流れていく夜の時間を、少しだけ自分のための落ち着く時間に変える行為だった。一言の感想が、生活文脈と重なると、利用価値として読めるようになります。
短い言葉ほど、それ単体ではなく、その人の生活のどこに置かれているかで意味が変わる。だから、あまり喋らない人が相手のときほど、本題に入る前の生活背景を丁寧に取っておく価値があります。
その言葉は本人発か、こちらに乗っただけか
あまり喋らない人へのインタビューは、こちらが仮説や言葉を差し出す回数が増えます。だからこそ、あとで分析するときに、どの言葉が本人から出たもので、どの言葉がこちらに乗っただけなのかを、仕分けておく必要があります。ここを混ぜると、こちらの仮説を、さも本人の声であるかのように事業に持ち込んでしまいます。
私はだいたい三つに分けて扱っています。
ひとつは、本人の言葉として強く扱えるもの。こちらが言う前に本人から出てきたものです。「六ヶ月の契約は長かった」「五百円くらいなら続けるかもしれない」「音声を流して、その横で自分も声に出している」あたりは、本人発なので、根拠として強い。
ふたつめは、共同で言葉にしたもの。本人が出した素材に、こちらが言葉を足して成立したものです。「写経の語学版」がこれで、彼女が先に「集中する」「落ち着く」を出していて、こちらが「写経のような」と置き、彼女が自分で引き取った。誘導とは言いませんが、こちらの言葉が混ざっているので、分析では「本人の発言をもとに整理した解釈」として扱います。
3つめが、いちばん注意すべき、こちらに乗られた可能性があるもの。たとえば彼女がYouTubeを見ない理由を、こちらが「時間を無駄に使いたくない感覚ですかね」と抽象化した場面です。少し前に本人が、SNSの投稿をやめた理由として「時間がもったいない」と言っていたので、根は本人発なんです。でもそれを「時間を無駄にしたくない人」という人物像にまで広げたのはこちらの言葉です。なので分析では、「時間を無駄にしたくない人だ」と断定するのではなく、「時間が溶けることへの抵抗がありそうだった」くらいに留めておきます。
うまくいった問いと、危なかった問いと、外れたけれど結果的に深まった問いを、混ぜずに仕分けることで、あまり喋らない人の短い返答を、安心して事業に使えるようになると考えています。
全部は拾わない、という判断
最後に、あまり喋らない人の発言は貴重だからといって、全部を深掘りすればいいわけではない、ということも書いておきます。
例えばリサーチクエスチョンの本筋とは別で、操作についての小さな不満がいくつか出たとします。自分からはあまり不満を言わないタイプの人がぽろっと出した不満なので、本来はとても貴重です。
ただ、この回のいちばん知りたかったこと、つまり「なぜ入って、何に価値を感じて、なぜ離れたのか」からは少し外れる枝葉でした。なので、軽く受けて、深追いはしませんでした。限られた時間の中で、貴重そうな話が出るたびに全部掘っていたら、本筋が時間切れになります。貴重さと、いま聞きたいことからの距離を天秤にかけて、貴重でも本筋から遠ければ流す。あまり喋らない人が相手だと、つい出た発言に飛びつきたくなるぶん、この捨てる判断も意外と大事だったりします。
喋りすぎる人と喋らない人に、同じ道具を使い分ける
喋りすぎる人と、あまり喋らない人は、一見すると真逆の相手です。でも、インタビュアーがやっていることの本質は、たぶん同じです。
読んでいるのは、話量ではなく、その人の価値観がどんな速さで表に出てくるか、です。早く、多く、散らばって出てくる人もいれば、遅く、短く、断片的に出てくる人もいる。前者には、流れを止めずに論点を取りこぼさない交通整理が要る。後者には、答えられる粒度まで問いを下げる足場かけが要る。やることは逆に見えて、根っこは「相手の出方に合わせて、同じ道具の使い方を変える」という一点です。
たとえば沈黙という道具は、喋りすぎる人に対しては、加速しすぎた会話を落ち着かせるブレーキになります。一方で、あまり喋らない人に対しては、本人の言葉が立ち上がるのを待つ余白になる。仮説という道具も、喋りすぎる人に対しては散らばった話を束ねるために使い、あまり喋らない人に対してはまだ形になっていない感覚に言葉を与えるために使う。質問票も、喋りすぎる人には順番を手放した「地図」として、あまり喋らない人には問いを小さく割る「階段」として使う。道具は同じで、相手によって役割が変わるだけなんですよね。
喋りすぎる人を型に押し込まないのと同じように、あまり喋らない人を「情報がない人」と型で決めつけない。早く出る人には流れを止めずに構造化し、遅く出る人には答えやすい形に問いを下げる。どちらの場合も目的は「たくさん話してもらうこと」ではなくて、出てきた言葉を、生活文脈や行動や離脱理由として読める状態にすることです。
まとめ
あまり喋らないユーザーとのインタビューで難しいのは、沈黙をどう扱うかです。ただ、沈黙にも種類があって、本人の中で言葉が立ち上がっている沈黙なら待った方がいいし、問いが大きすぎて固まっている沈黙なら、選択肢や比喩で足場を置いた方がいい。見分けがつかないうちは、まず待つ。先回りして埋めると、本人の言葉が出る前にこちらの言葉で固まってしまうからです。
そして、足場を置くほど誘導の危険も増えるので、置いた言葉が本人発なのか、こちらに乗られただけなのかを、必ず仕分ける。仮説は当てるためではなく、相手に「違います」と言ってもらうために置く。短い答えは、比べてもらうと意味が出てくる。一言の感想は、生活文脈の上に置くと利用価値として読めるようになる。
根っこにあるのは、相手の思考を信頼することだと思っています。端的にしか答えない人も、間が空く人も、たいていは誠実に考えてくれています。その思考を信頼して、辛抱強く待ち、答えやすい形に問いを下げていく。そこまでできると、「楽しかったです」「最近は見ていません」みたいな一言も、N1の声として、利用価値や離脱要因として読めるようになります。
インタビューは、話を聞いて終わりではありません。そこで得られた語りを、顧客の状況・欲求・離脱要因・意思決定のクセとして整理し、施策やプロダクト改善に接続してはじめて、事業に使える顧客理解になります。
Kumonoでは、N1インタビューや行動データ分析を起点に、顧客理解を施策・プロダクト改善・事業成長につなげる支援を行っています。
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